第二話 『 Never Change 』

 病院へ行ってきた。別に体の具合が悪いわけではなく、怪我をした友人を見舞いに行ってきた。
 彼は三週間前、長野のゲレンデでスノーボードをしてて、ジャンプの着地をミスってしまい頭を強打、つけていたヘルメットが割れるほどの衝撃を受けた。それ以来意識が戻ってない。

 事故当時よりはずいぶん良くなって、目を開けたり、こちらの問いかけに反応を示すようになったと、彼の母親が説明してくれた。しかし、ベッドに横になっている姿は明らかに、元気な頃の彼ではなかった。

 チャランポランにしか山へ行かない私と違って、彼は真剣にスノーボードに取り組んでいた。夏の間にガンガン働き、そこで貯めたお金を使って冬はスノーボード三昧という生活を送っていた。ニセコや福島、湯沢などと精力的に移動しながら、たくさんの友達を作り、滑りまくっていた。彼は決して試合の為などではなく、本当に心からスノーボードを愛し、何よりもスノーボードを楽しんでいた。そんな彼を前にして、何も出来ない自分が歯がゆかった。

 テレビが壊れたら電気屋、車が壊れたら自動車屋が修理するように、人間がこわれたら直してくれるのはドクターだ。もちろん私はドクターではないので、医学的に彼を助けることは出来ない。それでも、彼の手を握り、話し掛けたり、心の中で祈ったりすることで少しでも良くなるのであれば、どんなことでもバックアップしたいと思う。

 病院からの帰りにチェックした海には、サイズこそ小さいものの、きれいな新しいウネリが入っていた。何本かカタチのいい波に乗り、「keep surfingしかないな、俺は俺らしく波乗りを続けて、変わらずにいよう」と思った。何も変わらずに彼の回復を待ちたい。

2003年4月6日 SS